精神障害とは、何らかの脳の器質変化や機能的障害が起こり、様々な精神症状、身体症状、行動の変化が見られる状態です。法律によりその定義は異なり、明確な定義がされているとは言い難く、診断基準も国際的にまだ統一されていないため、判断する医師などの専門家によって病名や障害名が異なる場合があります。
うつ病
うつ病とは、気分障害の一つです。気分の落ち込みや、何をやっても楽しめないといった精神症状以外にも眠れない、疲れやすいといった身体症状があります。発症の原因は正確にはよくわかっていませんが、精神的ストレスや身体的ストレス、社会的要因などが強く関連していると言われています。
症状
①抑うつ気分、②興味や喜びの喪失、③自責感・無価値観
①意欲や行動の低下、 ②希死念慮と自殺企図、③日内変動(朝に症状が重く出て昼から夜にかけて少しよくなる)
①思考制止(考えが進まず頭が回転しない状態)、②微小妄想(貧困妄想、罪業妄想、心気妄想)など
①食欲低下、②睡眠障害、③倦怠感や疲労感、④頭痛、肩こり、⑤めまい、動悸、⑥下痢、便秘など
治療
・十分な休養:うつ病の治療の原則はしっかりと休養をとることです。心身の休養がとれるように環境を整えることが大切です。責任感が強く、休んではいけないと無理をしてしまう方もいるので、どうしても休養がとれない場合は入院をすることで、症状が軽減することもあります。また、散歩などの軽い有酸素運動が有効とも言われています。
・精神療法:精神療法には、従来の支持的精神療法に加え、認知のゆがみを修正する認知行動療法、人間関係の適応性を高めていく対人関係療などの専門的な治療法があります。
・薬物療法:うつ病に用いられる薬はさまざまありますが、抗うつ薬が中心に使われます。抗うつ薬は脳の神経伝達物質に作用して症状を和らげる効果がありますが、服用後すぐに効果が現れるというものではありません。継続した服用が必要なので、自分の判断で薬の量を変えたり、中断したりせずにしましょう。
統合失調症
統合失調症は、こころや考えがまとまりづらくなり、人格、知覚、思考、感情、対人関係などに障害をきたすの疾患です。10代後半~20代前半の思春期、青年期に発症し、生涯の有病率は0.7%~0.8%と推計されます。確かな原因は不明ですが、遺伝や神経発達の以上や、ストレスなど様々な要因が絡み合っているといわれています。
症状
症状は主に、陽性症状と陰性症状にわかれます。
- ►陽性症状
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幻覚妄想だけでなく、思考や会話、行動にまとまらなくなったり、興奮して奇異な動作などがあります。
- ►陰性症状
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周囲に対して無関心になったり、感情の喪失、意欲や集中力の低下、などがあります。
そのほかにも、知覚・思考などといった障害も見受けられる。各障害は以下の通りです。
- ►知覚の障害
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幻聴がおもにみられます。単に声が聞こえてくるだけではなく、自分の考えていることが他人の声になって聞こえてくる(思考化声)、自分を批判している声や複数人が自分の噂話をしているといった幻聴もあります。
- ►思考の障害
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思考が支離滅裂になってしまい、話にまとまりがなく、何を言いたいのかわからなくなったり、相手の話の内容がつかめないことなどがあります。
- ►意欲の障害
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自発性が低下し、生活が不規則になり、身支度が無頓着になります。また、今まで打ち込んできた趣味や楽しみに対して、興味を示さなくなったり、人付き合いを避けるようになることもあります。
- ►感情の障害
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外部からの刺激に対して感情がわいてこなくなるなど、感情の動きが鈍くなります。また、相手の感情や表情についての理解が難しくなり、会話は成立しても、意思が通じにくくなります。
治療
統合失調症の治療は、薬物療法と、専門家と話しをしたり、リハビリテーションを行う治療(心理社会療法)を組み合わせて行います。
・薬物療法:主に抗精神病薬を使い、場合によっては、抗不安薬や抗うつ薬などを使って治療をします。早くから服薬治療を開始することで、経過が良くなりますが、再発率の高い疾患のため、症状が安定したからといって自己判断で薬の量を変えたり、中断するなどはしないようにしましょう。
・心理社会療法:病気に対する自己管理の方法を身につけたり、社会生活機能のレベル低下を防ぐ訓練を行います。就労支援などの社会サポートも重要で、病状や生活の状態に合わせて、様々な方法を用いられます。(例)心理教育、SST、作業療法、認知矯正療法など)
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双極性障害
双極性障害とは、躁状態とうつ状態を繰り返す病気で、両極端な状態をいったりきたりします。このような気分の変調があることで苦痛を感じたり、社会生活に支障をきたすことがあり、有病率は約1%と言われています。
症状
- ►うつ状態
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楽しいことがあっても気分が晴れない「抑うつ状態」と、なにをしても楽しいと感じない、興味がわかないなど「興味喜びの喪失状態」の2つの精神状態で表されます。身体的には、食欲・睡眠などの活動全般が極端に低調になるか増加します。詳しくは、上記「うつ病」を参照してください。
- ►躁状態
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高揚気分と総会気分が生じ、上機嫌で楽しく、自身に満ち溢れ開放的になります。しかし、気分の高揚にとどまらず、情動が不安定になり自己中心的で攻撃的になることがあります。また、精神活動が亢進し、多弁で行動がとまらなくなります。抑制がなくじっとしていられないことにより、浪費や社会的逸脱行動をとってしまう可能性があります。
治療
双極性障害の治療には、薬物治療と心理的アプローチがあります。気分安定作用のある炭酸リチウムを使用することが多いですが、症状の安定度によって治療法が異なります。この薬物治療と併用して心理社会的治療を行うことが効果的で、自分の病気を知り、受け入れ、自ら病気をコントロールすることを援助する心理教育が大切です。
適応障害
日常生活の中で、何かのストレスが原因となって、心身のバランスが崩れて社会生活に支障が生じたものと言います。就職や転職、異動や病気などどのようなことであれ、あるストレスに対して不適応状態が生じることを指すため、ストレスの原因が明確であることが重要になります。
症状
具体的な症状は、抑うつ気分や不安感、混乱などの情緒的な症状、不眠や食欲低下、倦怠感、易疲労性、頭痛、肩こりなどの身体的症状が発現します。また、対処困難で行動していくことができない感覚、気分の低下により物事を遂行していくことが困難な感覚が生じます。
治療
適応障害の治療は、生じた症状に対して抗不安薬や抗うつ剤を投与するなどの薬物治療がありますが、根本的な解決方法ではありません。ストレスへの対処法を身につけて、適応力をつけることが必要になります。しかし、本人での対処が難しい場合には、ストレスの原因から物理的に離れるという環境調節もしなければなりません。
強迫性障害
強迫観念や強迫行為があり、それが本人にとって苦痛なものになっている状態です。自分でもつまらないことだとわかっていても、そのことが頭から離れず、わかっていながらも同じ確認を何度も繰り返すなど、日常生活に影響が出てしまいます。
症状
- 強迫観念
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頭から離れない考えのことで、それ自体は無意味であることがわかっているのに、頭から追い払うことができません。例えば、①細菌などの汚染への恐怖、②戸締りやガス栓、スイッチなどしっかり閉めたのか、③静かな場所で大声を出すのではないか、誰かに危害を加えてしまったのではないか、④自分の決めたルーティンを外れると不安になる、などがあります。
- 強迫行為
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強迫観念が行動にでたもので、自分で「やりすぎ」とわかっていてもその行為を繰り返さないと気がすみません。手を過剰に洗うや、戸締りを何度も確認する、などがあります。
治療
・認知行動療法:強迫観念による不安に立ち向かい、やらずにはいられない強迫行為をしないで我慢をする行動療法です。例えば、汚いと思うものを触った後手を洗わないで我慢をする、確認行動を我慢するなどで、こうした課題を続けていくと、強かった不安が弱くなり次第に強迫行為を減らしていきます。
・薬物治療:強迫症状や抑うつ症状、不安感が強くあるため、抗うつ薬を内服し、状態を安定させてから認知行動療法
に入るのが一般的です。
てんかん
てんかんとは、脳の一部もしくは全体が興奮しやすくなっていて、なにかのきっかけで容易に脳が過剰興奮してしまう疾患です。その興奮は「発作」と呼ばれ、意識障害やけいれん、突然走り回る(自動症)、手や顔の一部がピクピクする(運動発作)など多彩な症状を呈します。発作は、繰り返されるのが特徴です。どの年齢層でも発病する可能性があり、日本にも約100万人いると言われています。
症状
- 全般発作
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脳全体が一気に興奮する発作で、瞬間的に全身あるいは、四肢の筋肉にけいれんが起きるミオクロニー発作や、前ぶれなく突然、体の力が抜けバタンと倒れる脱力発作、ぼんやりとした表情で呼びかけに反応がなくなる発作、全身のけいれん発作などがあります。
- 部分発作
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意識障害を伴わない単純部分発作と、意識障害を伴う複雑部分発作に分かれます。前者は、半身の顔面や手足に限局したけいれんが持続的に起こったり、ねじれ姿勢をとる姿勢発作などがあります。また、嗅覚や味覚に異常を生じたり、失語症状が出ることもあります。後者は、前述した単純部分発作の症状が出た後に、意識が障害され、ぼんやりと行動が停止し、様々な言動をとります。具体的には、舌なめずりや無意味な言葉を発したり、歩き回ったりする、などがあります。
治療
てんかんの治療は、てんかん発作の抑制、特に生活に支障が出ないように症状を抑えることが主な目標となります。治療法としては、抗てんかん薬を毎日規則的に服用し、発作を抑制していく薬物治療が中心になります。抗てんかん薬は、発作の方や年齢、性別などを考慮して選択され、それらが適切かどうかは発作に対する効果や副作用の有無によって決まります。薬物治療を行って、期待した効果が得られない時は、外科治療や食事療法という選択肢もあります。
厚生労働省 e-ヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
厚生労働省 みんなのメンタルヘル
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/index.html
荘村明彦 『精神疾患とその治療』 中央法規出版 (2016)